◎ねずみのハナシ◎ |
あるところに一人の少年が暮らしていました。 彼の家の屋根裏には、もう一人の居住者がいました。 彼はいつも、暇があるとその小さな同居人に話しかけていました。 それは小さな小さな、汚い鼠。 だけど、彼の小さな拠り所でした。 たとえ解らなくとも、鼠はどんなことでもそこで聞いていてくれたから。 そして鼠は、少年の言葉を理解していました。 理解して、けれど伝えられない気持ちを抱えてずっと彼を見ていました。 何年も、鼠は彼を見つめ続けました。 いつか伝えられたらと見つめ続けていたある日、彼はある一人の人間を連れてやって来ました。 彼はその人間と向き合い、笑顔で抱き合い、口づけ合う。 それから彼の悲しいことも嬉しいことも、その人間が分かち合いました。 彼はもう、寂しくはありません。 そばにいてくれる人が出来たからです。 鼠は悲しくなりました。何が悲しかったのか、その時になって分かりました。 でも泣けなませんでした。 泣くことなく、彼女は息を引き取りました。 最後に、力をふり絞るように言葉を紡ぎ出しました。 「愛してた……」 彼には届かなかったが、鼠の骸を見つけた少年は絶望に顔を歪めました。 次は人間になりたい。せめて、あなたのそばに立てるように……。 鼠の願いは、ただそれだけでした。 |