『式師戦記 真夜伝』
イベント番外編
妹の夢 -St.Brother-
純・和風の家屋敷には似つかわしくない赤と緑のクリスマスカラーを中心に、ツリーを飾り付けている最中、ふと真夜は黙々と作業を続ける咲に声を掛けた。
「ねぇねぇ。今年もサンタさん来るかな?」
「あ〜……まだ来て欲しいわけ? この歳にもなって?」
「そりゃあ……だってやっぱ毎年来てるんだから楽しみじゃない」
「真夜、今年いくつになったの?」
「十七。高二」
「サンタさんて……幼稚園児じゃないんだからさぁ……」
最後の星を見つけて、真夜はまるで本当に稚い笑顔になってしまっている。
「よっし、星つけるよーん!」
「なんでぇ。まだそっちの飾り付け終わってないじゃない」
「いーでしょー」
「ダメ、星は最後」
「……ぶぅ〜」
向き直った咲は軽く溜息をついた。
同い年で、高校二年ともなった片割れの今後を思うと、溜息も出るというものだ。
「はぁ、食べた食べた」
「さすがおば様よね。プロ顔負けのクリスマスケーキおいしかったぁ」
「明日は咲んち行って、涼ちゃんのケーキ。あー楽しみ」
「ははは……お姉ちゃん今日は徹夜して作ってそ」
おやすみと言って、お互いの布団に潜り込む。
縁側の雨戸とガラス戸、それに障子を閉めているとはいえ今時のダブルサッシの家からすれば、畳の部屋は寒い。
夜半過ぎ、いや丑三つ時あたりだろうか。咲は部屋に近づく床の軋む音で意識を浮上させた。
ちょうど部屋の前で音は止まり、続いて障子戸と敷居の擦れる微かな音に神経が集中する。
侵入者は枕元までくると、何かごそごそと置いた後そそくさと去っていった。
咲は、その侵入者の正体を知っていた。
「毎度毎度、ありがとうございます。臣彦さん」
「……いや」
翌朝ちょうど洗面所の前を通りかかると、その人物が目に入ったので足を止めて声を掛けた。
照れ隠しなのか別にどうとも思っていないのか、その顔はえらく無表情のようなフリをしている。
「今年も真夜言ってたんです。サンタが来るかなって、楽しみに」
「……」
「別に正体が誰とかっていうのは、未だに分かってないみたいです」
「……」
「毎年毎年真夜の欲しそうな物、よく分かりますね」
歯磨きもし終わったのだろう。無言で彼はその場をあとにした。
思わずくすりと笑ってしまった。
「素直じゃないっていうか、お互い不器用だなぁ」
いつもの事ながら、このすれ違いながらもお互いを想う二人を、咲はほほえましく見守っている。
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