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猫のロボッツ
<夕凪 海燕さんに捧ぐ>

  

  見かけは猫のマスコット人形、大きさは小さい子どもくらい、なんでも出て来るポケットはないが、最先端コンピュータとシステムを兼ね備えたロボットたちがいた。
「よーよー、そこの坊っちゃん嬢ちゃんよぉ」
 紫色に吊り上がり目。左目から頭にかけて色が濃い。曲線美が売りの胴体から伸びるヒモのような腕の先。ビシッとポーズを取った指先がこちらに向かって突き出されている。
「あんただよ、あ・ん・た! これを読んでるあんたらよ! 猫の形のロボットだからって、どっかの青いタヌキみたいな猫型ロボットと一緒にされちゃあ俺さま怒っちまうぜ」
 ガァンという音ともに、頭の上に火花に続いて小鳥がピヨピヨと泣きながら飛び回っている。
 後ろには倍の大きさはあるだろう拳を握った、少し太めでオレンジのほっぺたに渦巻き模様が入っている猫型ロボットが立っていた。
「誰に向かって言ってるんだ」
「いてて……誰にって、読者に決まってるじゃないか」
「バカだろ、うすらキツネめ」
「あー! 人の気にしてること言ったなぁ! この大福猫!」
「もっかいやるかあ!?」
 ぐぬぬぬと唸り声を上げて火花を散らしてる間に、ふんわりとした水色の、くりくりとした猫のロボットが割って入って来た。
「はいはい、良い子のみんながドン引きするからアホなけんかはやめなさいっ」
「タっ──」
 すこーんと言う音と、一瞬だがハンマーのようなものが見えた……気がした。
「フランチェスカ! 私の名前はこれ一つよ。いいわね?」
 打って変わった鬼の形相に、二人(?)のロボットは黙ったまま何度も頷く。
 満足したのだろう。顔がアップになる頃には可憐な笑みを浮かべている。
「またツンケとウズマルは喧嘩か。阿呆とは何をやっても飽きないものだなぁ」
 分厚い本を片手にやたらキザな目付きの赤い猫型ロボットがやって来た。
「俺さまはドンピだ! ガリオには言われたかねぇぜ」
「じゃいっそトンマにするか? その方がぴったりだ」
「そういうあなたも、よく飽きないで毎回ケンカを売るわね、トラジロ?」
「おではハットだ!」
 呆れ顔のフランチェスカの横で、手を振り回してオレンジの猫ロボットが怒っている。
「ところで、何かさっきからガツガツと音がするが……」
「そういえば……ガツガツと……」
「後ろの方に……」
 ガツガツというのは随分後ろの方から聞こえていた。振り返って見ると、緑のなんともひょろっとした物体がお菓子の山に頭を突っ込んでいた。
「おーい、ピロ!」
 ドンピに呼ばれて顔を上げたその猫に似せられたロボットは、眉が少々濃いものの、似たような吊り上がり目をしていた。
「こっち来いよ!」
「うん、今行くー!」
 立ち上がりヒョコヒョコと駆けて来たその姿は、四匹(?)の身長より頭二つ分は抜きんでていた。
「なぁにぃ?」
「……まずは、その顔をなんとかしようぜ」
 こめかみから垂れる汗と、引きつる頬をなんとか笑みにごまかして、ドンピはピロに言ってやった。
「ん? あー」
 ゴシゴシ、グシュグシュ、と派手に顔を拭き息をついた。
「これでいい?」
「OK、OK。で、何を食べてたんだ?」
「……今日のおやつ」
 キッカリ三秒くらいの沈黙の後、
「えー!!!」
 別人、もとい別猫、もとい別なロボットと見間違うほどに絶叫した顔はひどかった。
 ピタっと止まってからドンピは、考えたくはないが確認しないではいられない焦りを抑えつつ、自分よりも大きいピロを見上げて聞いた。
「おや……つ? みんなの……か?」
「うん」
「ちゃんと、残ってるわよね?」
「ううん」
 燃え尽きた────というわけではないが、紫・オレンジ・水色・赤の猫型ロボットたちは、まさに真っ白な灰と化してしまった。
 ハットを見てみれば痙攣を起こしている。
 ゴングのような効果音さえ降ってきそうな様子だ。
「で、なぁにぃ?」
「おーやーつーはぁ……みんなのだろーがあ!」
 ふるふるとさせていた両手を上げてドンピは叫んだが、ピロは言葉が分からないかのように首を傾げてきょとんとしている。
「みんなのってことはぁ、僕のってことだよねぇ?」
 小気味良い音が聞こえてきそうなほどに、四人の口は身の丈と同じくらい大きく開けられ、顎は床へと落ちた。


  
  
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