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『落ちた先は、魔法の世界』

 
  第1話 いい眺め
  

 ある農村地帯のある家に、両親と穏やかに暮らしている三兄弟がいました。
 一番上と一番下は男の子で、兄はしっかりしていて面倒見が良いというよりは、世話焼きの15歳。
 弟は甘えん坊で、いたずらっ子の割には気まわりの良い5歳。
 そして真ん中は、クルルと言う気丈でおてんば10歳の女の子。
 領主と言うわけではないけれど、恵まれた家に育った三人は、普段は家仕事を手伝っていた。


  ある日のお昼、クルルと弟のクアーは手伝いの合間に、庭の木に登っていた
「うわー! やっぱりこの木が一番眺めがいいー!クアー、早く登っておいでよ」
「待ってよ、おねえちゃん。お兄ちゃんも一緒の方がよかったんじゃないのー」
 そんな弟を、クルルはお構いなしに、上のほうの太い枝に腰をかけて遠くを見ていた。
 北東から真東まではのどかな田畑が広がり、南方には緑豊かな景色が地平線まで伸びているようだった。
 その時、
「こら! クルルにクアー! 兄ちゃんが一緒じゃないのに木に登るのは危ないだろ」
 兄のクリムが二人を見つけて駆けてきた。
 いけないとばかりに、いの一番にクアーが降りていった。
「お姉ちゃんがやろうっていったんだよぉ」
「あら、やるやるって喜んだのはどこのどなた?」
 と、降りるや否や言い訳をしている弟の言葉に不服を言いつつも、降りてくる気配はない。
「ほら、クルルも降りて来い。母さんが手伝ってくれって呼んでたぞ」
「はぁーい、今降りますよ」
 ふくれながらも降りる体勢をとった。
 だがこのとき、クルルの手が太い枝から滑ってしまった。
 それと同時に、10歳の少女の体は空に投げ出された。
「きゃー!」
 下にいた兄弟の顔は、一瞬にして蒼白になった。
「クルル!」
「おねえちゃん!」
 
 
 
   意識は戻ったがまだ闇の中にいた少女の耳に、水のせせらぎとそよ風で木々の擦れる音は入ってきた。
(え?)
 目を覚まし、ばっと起き上がった。
 記憶にあるのは、手伝いの合間に弟を誘って家の庭木に登って、そして手を滑らせて体が宙を飛んだこと。
 間違っても、こんな見たこともない森の景色なんて、微塵も覚えがない。
「何、ここ」
 固まりかけのなんとか動かして、あたりを四方八方、上下左右まで見渡したが、見慣れたもののどれにも引っかかりはしなかった。
「お兄ちゃん……クアー……?いないの?」
 クルルは大きく、そして深く深く息を吸った。
 西の−クルルの家から西側に見える森……にしては、少しあれている方に見えたが、もし本当に西の森ならば、たとえ気丈なクルルでも普通にしていられない。
 見たことはないけれど、西の森には熊がいると父さんに聞いていたし、森にはいるときは父さんがいつも銃を持ってた。
 荒れているように見えるけど、西の森の奥なのかもしれない。
 そう考えながらようやく立ち上がり、とりあえずクルルは太陽とは反対の方向に少し伸びた川沿いに下っていった。
 
 澄んだ小川に、鳥のさえずりも、木々の間を通るそよ風も一見心地よく感じられるが、後に残るのはおかしな気分だけ。
「ほんとうにどこなんだろう、ここ」
「どこってレナーの森よ」
 クルルははっとして立ち止まった。そして辺りを見回したが、その返答の主の姿は見つけられなかった。
 いたのは、脇をかすめて木の上へ飛び上がった青い鳥が1羽だけ。
 おかしいなぁと首を傾げながらも、また歩みを進み始めた。
「さっきのは誰だったんだろう……」
 とつぶやいた、その時だった。
「私よ、私に決まってるじゃない。ねぇ、ピッキー」
「そうよね。他に誰がいると思うのかしらね、フィリア」
 今度は声が2つだ。確かにクルルの耳はその声をとらえた。
 同じように辺りを見回してみるが、いるのはさっきの鳥とリスが一匹ずつだ。
 しかし確信があったクルルは近寄って声をかけてみた。
「まさか、あなた達がしゃべったの?」


  
  
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