| 『落ちた先は、魔法の世界』第2話 森の小さな歓迎者
 
   先に口を開いたのはリスだった。
「やっと気が付いてくれた。ね、フィリア」
 「そうよね、ピッキー。気づくのが遅いのよ」
 次は鳥が少女の方に留まって答えた。
 2匹を比べる様に見ているクルル。
 「わぁ……!」
 思わず腰を抜かしてしまい、地面に座り込んだ。
 だが次の瞬間、彼女の顔には驚きのカケラもなく笑顔が浮かんでいた。
 「ねぇ、えっとリスさんの方がピッキーで、青い鳥さんの方がフィリアって言うの?」
 「青い鳥じゃなくて、私はコーレーバードよ。地方によっては、レナーに仕える一族もいる鳥なのよ」
 そう不満げに、けど自慢げに話したフィリアに、リスはこう付け足した。
 「フィリアは普通のコーレーバードだけどね」
 余計なことをと言わんばかりに、フィリアの頬は膨らんだ。
 「レナーって何? あ、私クルル。よろしくね」
 と両手を元気に差し出され、片方は小さな手が、もう片方が羽がその手を受け取った。
 「レナーを知らないの? 近頃の人間てどうなってんのかしら。ちょっとピッキーどう思う?」
 鳥は、コーレーバードだと誇らしげに言っていた彼女は、リスを見た。
 ピッキーはそれに考えるコトもせずに答えを返した。
 「だって見てよ。ここらで見かけたことのない人間よ? 服もどこかさっぱりだし、さっきここがどこかも分からなかったもの」
 「そうね。いい?」
 とフィリアという鳥は、いかにも偉そうに咳払いをし、背筋を伸ばして目の前の人間の少女に教え始めた。
 「ここは前に言ったように“レナーの森”。“レナー”っていうのは、不思議な力を使って色んなことが出来るの。背中には羽根が生えてて、音楽が好きで、言うなれば子の森を支配している主よ」
 「レナーって魔法使いなの?」
 「そういえば人間達はレナーのこと、“妖精”って言うこともあるみたいよ」
 「妖精さんのことかぁ。って本当にいるの?」
 「いるに決まってるじゃない!」
 2人は思わず声をそろえて言ったので、お互いの顔を目をぱちくりさせながら見合った。
 
 三人は歩きながら―というよりも一人は飛んでだが―話し続けた。
 「そう言えば、私お腹がすいたんだけど、何かないかしら」
 ピッキーはニっと笑った。
 「たぶん今の時間だと、誰かさんが、釣りをしているところだわ。行ってみましょ」
 「あ〜、そうだわね。私もご相伴にあずかりましょうかねぇ」
 誰のことを言っているのかさっぱり分からないで、クルルはぽーっと空を見上げた。
 それでなくても、いきなり知らない所にいて、しかも鳥やリスがしゃべっていて、あげく妖精までいる世界に来てしまって、本調子ではないというのに。
 
 そうこう歩いているうちに、川が大きく曲がっている所に出くわした。
 動物の二人は森を直進した方が近道だと言い張り、川を離れることになった。
 「いたいた。そぉっと近づいて……」
 と言ったフィリアの視線の先にそれを見た。
 少女の目に映ったもの。
 明らかにそれは、“ライオン”だった。
 幸いにも寝ている様で、息が一瞬凍り付いていたクルルは、ほっと溜息を1つ。
 そんな彼女を気にせず、あとの小さなレディー二人はどんどん近づいていった。
 そして、
 「わ――――――――――!」
 自分の何倍、何十倍もアルその大きな者の耳元で飛び上がるような声を出した。
 実際そのライオンは飛び起きた。
 小さな二人を抜かした二人はその時、不本意にも目が合ってしまったのだった。
 
 
 
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