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『落ちた先は、魔法の世界』

 
     第5話 ウッドヒルへ
     

 宴会騒ぎもほどほどにして、動物たちを散開させたコレスは一人と二匹と一羽を引き連れて、森の深部に向けて進み出した。
「我々この森のレナーは、森の奥深くにあるウッドヒルに住んでいる」
「ウッドヒルって遠いの?」
「普通に歩いたらな」
「たどり着けるとすれば三日かなぁ」
 ピッキーは、バーレフに乗ったクルルの肩でつぶやいた。
「たどり着けるとすれば、ってどういうことなの?」
「ウッドヒルは、コツがないと見つけられないのよ」
 レナーコレスと飛んでいたフィリアも、楽しようとクルルの肩に止まった。
「コツ?」
「コツってていうか、招待されなきゃ着けないのよ」
「ん?」
 脇からクスリとコレスの笑いが聞こえた。
「ウッドヒルにはな、善き者しか入れんのだ」
「バーレフってば、コーレーバードのあ・た・しが教えようとしてたのにぃ」
「なんじゃそのくらい」
「よきもの? いい人ってこと?」
「見えて来たぞ」
 微かな月明りに照らされたコレスの視線の先、夜の森の奥に仄かに明るいものが現れた。耳を澄ますと、ザァーと水が落ちている音がだんだん大きく聞こえてきた。
「アレって滝?」
「ムーセの滝だ。あの滝の裏の穴を通って行くんだ」
 それはそれほど高くない岩の壁の切れ目から、細く透き通るように流れ出ている極規模の小さな滝だった。
 透けて見える滝のあちら側には、岩壁に人が歩いて通れるほどの穴が、隠れるように開いていた。滝の下はこれまた小さな泉のようになっていたが、どんどん水が流れ出ているのに川につながっている様子はない。
 コレスとフィリアに続いてバーレフと背に乗る二人も、ぐるりと泉を回って滝裏の穴へと足を踏み入れた。
「月明りがとどかないのに、なんだか明るい気がする……」
 クルルは穴を進むうちに不思議に思った。出口が見えていなかったはずが、それほど歩かずして外に出た。
 穴を抜けると、そこにはいまだかつて見たこともないほど幻想的な景色がクルルを迎えてくれた。
「うっわぁー!」
 太く枝を何本も自由に伸ばした巨木の森。その背景には夜にもかかわらずほんのりラベンダー色の虹がかかった大きな滝があり、巨木の森は蛍が止まっているように所々に暖かい明かりが灯っていた。
「これが我がウッドヒルだ」
「すごいわ! 妖精の森へ来られるなんて夢みたい!」
「私たちも呼んでいただけるなんて……」
「うっとりよねぇ……」
 フィリアもピッキーも、幸せそうに溜め息をついた。
「長《おさ》ー!」
 淡い紫色にみえる森のどこからか、慌てて飛んで来た者がいた。
「あぁ、タリュム」
「全招会から戻ったあと姿が見当たらないと思いましたら」
「途中森の者達の宴を見つけてな。客人だ」
「まあ」
「私の家まで案内しろ。私は皆を集めに行く」
 そのまま彼女は巨木の森の中に飛んで行ってしまった。
「どうぞ、こちらへ」
 ニッコリと笑ったそのタリュムというレナーは4人、いや1人と2匹と1羽を森の中へと導いた。
 巨木に張り付くような太い蔦の坂を戻り、自由に伸びては苔むした枝に作られた道を、上がったり下ったり、時に吊り橋や木で出来た階段を歩く。
 木の洞《うろ》や枝や幹のところどころには、軒先にランプが灯った家々が、巧みな技で築かれていた。
 幹に木組みの足場を造り、寄り添うように建てられた家。
 枝の先の葉の間に隠すように造られた家。
 枝から落ちる太い蔦で空中に浮いた家…………。
 巨木の森がまるごと一つの村を造っていた。
 生い茂る葉の切れ間からは、どこからもあの紫に淡く明るい滝と虹を見ることが出来る。


     
     
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