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『落ちた先は、魔法の世界』

 
     第4話 妖精
     

 透き通るまるでガラスのようなそれは、まるで降り立った、女神のようなその者の背にある翼。
 羽といったらよいか。
 姿全体には、光が生きているかのように周りを包み込み、全ての者の時がその瞬間止まったようになった。
「宴の時は私も呼べと言ってあるだろう。今宵は何の祝いだ? 昇光節にはまだ時期が早いはずだ」
「申し訳ない。ウッドヒルに行っても誰もおられなかったので」
「今日は全招会だ」
 クルルは本当に驚いた。
 レナーは妖精だと聞いていた。にもかかわらず、今眼に映っているのは妖精というより、むしろ天使。
 大きさも人間くらい。物語の中に出て来る妖精ではなかったのだ。
「ほう。どこの者だ?」
「え? あ、あの」
「どこの者だと聞いているんだ。おおかたあの人間の娘の歓迎の宴だろう?」
 そう言うと、すっとクルルの前へと歩み寄って行った。
「レナーがパロレラ族、長のコレスパロレラだ」
「あなたがレナー?! 天使様みたい!」
「てんし?」
「天の神様の御使い。私はクルル、はじめまして」
 もうこれ以上は、驚きより興奮が上回っていた。
「妖精という名で呼ばれることはあるが、天使とは聞いたことも言われたこともない」
 しかし羽だけは予想通り透き通ったものだった。
「まあ宴の序だ。私からも贈り物をしよう」
 すると彼女はクルルに向かって、雪降るかのような光をあびせ、何かの蔦でできた指輪を渡した。
「汝をレナーの聖名において祝福せり これよりそなたには陽と月と星々の恩恵が絶やされることはないだろう……受け取れ」
「今のは何の呪文?」
 クルルは聞きながら渡された蔦の指輪を右手の薬指にはめた。
「呪文じゃないわよ。んー……幸福を分けてもらったのよ」
「そうそう」
 フィリアとピッキーは満足げにニマニマしてはきのこを頬張っていた。
「へぇ。で、これは? えっと、レナーコレス」
「コレスと。人間のお前はレナーと呼ばなくていいのだ。これは、ウッドヒルにしかない、ミルシェの蔦で私が編んだ指輪だ。お守り代わりに、いま光を吹き込めた」
 わぁと動物達から歓声が上がった。
 そして動物達によってクルルは、ひょいひょいと宙に何度も放り投げられた。
「きゃっ、なになに!」
「あははは、高い高い〜」
「私も入れて〜」
 フィリアとピッキーは、二人で面白がって笑い転げていた。
「はっはっはっは。いい加減しないと、落とすぞ」
 コレスまでが大袈裟に笑っている始末。
「もう、笑ってないで止めてよね」
 クルルも嫌がりながらも、だんだん楽しくなってきた。
 だが次の瞬間感じたのは昼間のライオンの背への落下の感触。
 またまたその背を滑り落ちたクルルの周りで、さらに動物達のドンチャン騒ぎは続いた。
 遠吠え上戸になる者や、千鳥足で踊り狂ってる者、鳥の中には美声を競うように歌を歌う連中までいた。
 フィリアもピッキーも、クルルのことはすでに忘却の彼方で、滑り落ちたままクルルは大の字に木々の間から見える星空を見上げていた。
 こうして考えてみると、本当に不思議なことだ。
 いつもだったらおてんばでやりたがり屋のクルルはパーティーの輪の真ん中で騒いで兄に叱られているところだが、どうにもそんな気すら沸いてこない。
 もとをただせばここがどこなのかもわからずに、こんな宴会騒ぎをやってる自分の方が変なのかもしれない。
「何をしている」
 いつの間にか、白く透き通るようなコレス顔が上からをのぞていた。
「今日の寝床はあるのか」
「え?」
「泊まるところはあるのか」
「あ、レナーコレス。私どもの巣へと思ったのですが」
 フィリアが言いながら慌てて飛んできた。
「背丈は考慮に入れたのか?」
「あ」
「ぶわっはっはっはっはっは」
 近くにいたバーレフは吹き出した。
 いくら“コーレーバード”の家とはいえ、しかも幼い少女とはいえ、人間のクルルが小鳥の巣ではあんまりである。
 入れるはずもなく、野宿同然になってしまう。
「クルル、ウッドヒルへ来ないか?」
「え……それって」
「私の家へ招待しよう」
「えー!」
 フィリアと、少し離れたところで話を聞いていたピッキーは驚いた。
「クルル! あなたウッドヒルにレナーコレスから直々に招待されるなんて、すっごぉく光栄なことなのよ! うわー、すごいことになったわ」
「最高の栄誉じゃない!」
 それは動物達にとっては恐れ多いラッキーなことらしく、小鳥とリス慌てふためいていた。
 自分が招待されたわけではないのにもかかわらず。
「来るか? クルル」
 呆気にとられていたクルルは気を取り直して拳を握った。
「い、行く!」
「よし。では今宵の宴はこれまでだ。お前たち三人もついて来るがいい。バーレフ、お前の背にクルルとリスを乗せてはくれまいか」
 バーレフは返事の代わりに首を低くした。


     
     
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