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『小さな伝説』

 
   第2話 最果ての地「アラモラ」
   

──悲しみを飲み込むその地の名は「アラモラ」──
──生き物に与えられしは空……地に生まれし者に……──
――その方向は日の出ずる眩しさより夜の闇へ……──

「だめだ。思い出せない。母さんが小さい時、よく歌ってくれたはずなのに……」
 ミケルはアラモラの事を何一つ知らなかった。
 年老いた村の人なら多少の知識はあるはずなのだが、今となってはこの歌を歌うことができる人は、自分にあの歌を教えてくれる人さえ、この村には残っていない。
 母の歌声の思い出、そして古文書のみが残された手がかり。
 ミケルは必死で自分の進むべき道を探し出そうとしていた。
「アラモラ」
 テラセボンに住むものなら、誰しもその名聞いたことがある伝説の地。
 美しき楽園とも、悪しきもの全ての発祥の地とも言われるその場所は、大昔からこの国に歌として伝えられてきた。
 しかし実際にその場所を訪れたものは未だなく、その伝えられる歌すら、薄い記憶によるものでしかないためその歌を正しく歌えるものは無い。
 もうその暖かさを感じさせない母の変わり果てた姿を前に、ミケルは必死にその歌を思い出そうとしていた。
「分けがわからないよ。古文書なんて急に渡されたって……。いったいアラモラってなんなんだよ。そんな歌どこにもありゃしないさ。あれはきっと作り話。本当になんてあるわけが無い…… 」
 虚無に取り付かれたミケルはバタリと本を閉じた。その時であった。 
 ピローロロロロ……
「フィビディー! どこへ、古文書を返してくれ!」
 フィビディーは古文書を鷲掴みし、家の外まで飛んでいったかと思うとふっと大地にその本を下ろし、嘴で数枚捲った。
「ミケル、ついに時は来たのです。この絵を見てみなさい」
「あっ これは……」
 そこに描かれていたのは塚の中に描かれた壁画と同じ、伝説の英雄デスロスとフィベロアの絵だった。
「まさかとは思うけど、これが僕とフィビディーだというのかい」
「いいえ デスロスは実在した英雄でした。彼もまた故郷を闇に襲われ、「アラモラ」を訪ねてきたのです」
「訪ねてきたって……どういうことなんだい。それになぜフィビディー、君は話をできるんだ。いったいなにがどうなったんだ。君はなにかを知っているのか?」
「悲しみはアラモラに吸い込まれます。ミケル、あなたは悲しんでは為らぬ人なのです。涙が乾いたら、塚へ向かいなさい」
 バサバサ…… 
 強い突風とともにページが暴れるように捲られる。
 ピロー! ピロロローー!
「答えてくれ! 教えてくれ! フィビディー!」
 フィビディーは大きく羽を広げると、塚の方へ向かって飛んでいった。
「塚へ行こう」
 そうするより、他に方法は無かった。
 

  小さい頃、酋長の家に遊びに行くと、家の裏から続く洞窟のような道を通ってよく塚の中へは入っていた。
 塚の中は簡単な迷路のようになっていて、壁には見たことも無いような文字が所々に描かれている。
 子供心にそんなものに目が留まりはしなかったが、今見てみるとこの文字がひょっとしたら何か大事なことを語っているような気がして仕方が無い。
「あった」
 洞窟はまもなく行き止まりになり、そこに少々の広場のような場所がある。
 壁に描かれているのは、古文書にもあった伝説の英雄と神鳥の画である。
 気が付かなかったが、よくよく見てみると、英雄デスロスは悲しい顔をしている。
 フィベロアは翼を大きく広げ、デスロスを励まそうとしているようだ。
「とても英雄には見えないな」
 バサバサ
  ピロ――ロロ――!!
「フィビディー!」
 フィビディーはミケルを誘導するように再び洞窟の外へ飛び出ていった。
「おい、フィビディー!」
 フィビディーは塚の上で大きく羽を広げた。
 その色は、いつの間にか暮れていた空に浮かぶ満月の下で大きく7色に輝く。
「あっ……!」
 ―――その方向は日の出ずる眩しさより夜の闇へ―――
「フィビディーの色は赤から青に、方向性をもって輝く。そうか! 神鳥のフィビディー! お前がその場所を教えてくれるんだね」
 もうこの土地にはなにも残っていない。
 全てを元に戻らせるためには、このフィビディーの色を頼りに、アラモラへ旅発たなければならない。
 おそらく“フィビディー”はなにも知らないだろう。
 生まれたのもこの村で、ミケルとずっと暮らしてきたのだから。
 満月に照らされた明るい夜に、ミケルは夜の闇の方向へゆっくり歩き始めた。


   
   
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