| 『落ちた先は、魔法の世界』第3話 ライオンと少女
 
  聞こえてきたのは悲鳴と吠える声。
悲鳴の主は一目散に逃げ、吠えた声の主は、それをまた吠えながら追いかけて行った。
 「あーもうややこしい! フィリア追いかけて!」
 「分かってるわよ!」
 鳥が追いかけようとした時には、両者の姿はすでにどこかへ行ってしまっていた。
 
 空高く飛び上がって、空の上から目を皿のようにして二人を捜し、ようやく見つけて彼女は急降下した。ライオンの前をめがけて。
 「ちょっとちょっとバーレフ! 何寝ぼけてるの!」
 急に目の前に現れた鳥を見て、ライオンは足にブレーキをかけたが、あまりに急ブレーキすぎたために派手に転倒してしまった。
 「あ〜あぁ、ぶへっ。え〜、えらい目に遭った。フィリア、お前またオレ様を脅かしたな」
 「小心者なだけじゃない。アレくらいで驚いてたら百獣の王が聞いて呆れるわよ」
 「何を言う。それよりさっき人間がいた気がしたが、気のせいか?」
 「あ、そういえば。クルル!クルル!」辺りをいくら見渡しても見あたらない。
 「やっぱりいるのか。してどこの者だ?」
 「そんなこと言ってる場合じゃないわよ、もう。クルル!大丈夫よー! このライオンは、小心者のバーレフっていうんだから」
 「“小心者”は余計じゃ! おーいクルルとやらー! 出ておいでー! わしゃ草食ライオンじゃぞーぃ!」
 ニ匹の頭上から、ひらひらと何枚かの葉が舞い落ちてきた。
 「フィ、フィリア――! 本当に大丈夫―――――!」
 今にも震えそうな声だが、確かにクルルの声だ。
 「だからわしは肉は食わんと言っとるだろうがー!」
 「魚は食べるじゃない。大丈夫、降りてきなさいよ」
 葉の覆い茂る木から、恐る恐る降りてきた。
 しかしどうも滑る幹なものだから、またまたこの小さな少女は木から落ちたのだった。
 「そーれっ!」
 ライオンはクルルをその背中に受け止めた。毛がフサフサしていて、無傷で済んだ。
 けれど彼女は動けなかった。
 「おい。腰が悪いが早く降りてはもらえんかな?」
 「クルル、大丈夫?」
 そのままクルルはその獣の背中を転がり降りた。
 「うん。だ、大丈夫だけど……」
 再び獣とクルルは目が合った。
 「もう、だからわしは草食じゃと言っておるに。バーレフという。お前はどこの者だ?」
 「ライオンて、肉食じゃあ……」
 「バーレフはね、肉といったら魚しか食べない変なライオンなの。老いぼれだからかしら」
 「何?! わしはまだまだ現役じゃ」
 クルルは初めて、声をあげて笑った。
 「草食で魚しか肉はたべなくて、それで小鳥にからかわれてるライオンなんて初めて聞いたわ。私はクルル。よろしくね、ライオンさん」
 「じゃからバーレフという名前があるわい」
 小さな手と毛むくじゃらの手が、初めて温かく重なった。
 三人が川辺に戻ると、そこには大量の魚が積み上げられていた。
 「どーしたのこれ!」
 リスは笑顔で振り返った。
 「大漁大漁!」
 「すごい数……これどーするの?」
 「決まってるじゃない」
 リスはにぃと満面の笑みを見せた。
 「クルルの歓迎会よ!」
 
 
 その夜、コーレーバードやリス、ライオンの他にもたくさんの動物達が集まった。
 動物達はそれぞれに持ち寄ったもので宴会を始めた。もちろん主役は人間の少女、クルルだ。
 騒ぎぶりは森の中に響き渡り、人間顔負けの酒盛りとなっている。
 宴会の真っ最中、その光はひっそりと近くの木陰に降り立った。
 「なんの宴をしている」
 声にフィリアが気がついた。
 「レナーコレス!」
 一同声の主を振り返り驚いた。
 
 
 
  前へ  次へ   |